「デジタルが冷たい」と言われる理由と、温かい介護の両立方法

介護業界においてDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速する中で、現場では効率化・省力化に一定の成果が見られるようになってきました。
記録の自動化、AIによる見守り、遠隔モニタリング、タブレットでの申し送り――これまで人の手と経験に頼っていた業務が、テクノロジーの力で再構築されつつあります。

しかし一方で、現場からはこんな声も聞こえてきます。

「介護が無機質になってしまう気がする」
「デジタルって、どこか冷たい感じがする」
「機械に任せていいのは、介護じゃないんじゃないか?」

このように、“テクノロジーが介護の温もりを奪うのではないか”という不安や違和感を抱く職員や家族、利用者も少なくありません。

本記事では、「デジタルが冷たい」と言われる理由を掘り下げながら、ICTを活用しつつ“温かさ”を守る介護のあり方について考えていきます。


なぜ「デジタルは冷たい」と感じられるのか?

1. 画面越しの対応に“心が伝わりにくい”

介護DXの中でも、記録や申し送り、利用者情報の確認がすべてタブレットやPCを通して行われるようになると、**“職員が利用者の顔より画面を見ている時間が長くなる”**という現象が起こりがちです。

この状況を利用者や家族が目にすると、
「ちゃんと見てもらえてない」
「機械ばかり見ていて、心がない」
といった印象を抱かれてしまうのです。

2. “効率重視”がケアの質を下げるように見える

デジタル化によって、移乗のタイミング、服薬時間、レクリエーションの実施記録などが数値やデータで管理されるようになると、“スケジュールありき”の対応が強くなる傾向があります。

「まだ食べ終わっていないのに時間だから片付けられた」
「レクの途中で“次の予定”を優先された」
など、“人より仕組みが優先されている”感覚が、温かさを感じにくくする原因になります。


一方、デジタルが“温かさを支えている”側面もある

“余裕”をつくることで、笑顔が生まれる

記録の入力時間が短縮されることで、職員が利用者と向き合える時間が増える
夜間の見守りがAIセンサーで効率化されることで、夜勤者の精神的な余裕が生まれる
これらはすべて、“温かい介護”を支える土台づくりです。

デジタルは、「人を冷たくする」のではなく、「人に余裕を取り戻す」ことで、本来の温かさを発揮できるようにしているとも言えるのです。

“見えない気づき”を可視化し、より深く寄り添える

AIや記録分析によって、「最近トイレの回数が増えている」「食事のスピードが落ちてきている」など、職員の勘だけでは拾いきれなかった微細な変化に気づけるようになります。

この変化に基づいてケアの方法を見直したり、声かけの工夫をすることで、利用者一人ひとりへの深い理解と対応が可能になるのです。


“温かさ”と“デジタル”を両立させるための3つの工夫

1. テクノロジーを“主役”にしない

ICTやAIはあくまで**「ケアを支える道具」であり、ケアそのものを代行するものではありません。
職員がツールに頼りすぎると、いつしか
“機械中心のケア”になってしまうリスク**があります。

たとえば、記録はタブレットでも、利用者と話すときは目線を合わせ、表情に注目する
通知が来たから行くのではなく、「少し気になるから見に行く」ことも大切にする。

このように、人としての感覚や関わりを中心に置きつつ、ICTを“補助役”として活用するバランス感覚が求められます。

2. “声かけ”や“ふれあい”の文化を意識的に育てる

デジタル化が進むほど、意識的に温もりのある関わりを増やす努力が必要になります。
たとえば、

  • 朝の挨拶を必ず職員の目を見て行う
  • 記録入力後には「ありがとう」「お疲れさま」と声をかける
  • AIの通知をきっかけに「さっき心配だったけど、今はどう?」と対話を重ねる

こうした小さな対人行動の積み重ねが、デジタルによる冷たさを中和し、職場やケアの中に“ぬくもり”を取り戻す鍵になります。

3. “デジタル=安心”と伝えられる工夫をする

家族や利用者にとって、「機械に頼るなんて不安」という感情があっても不思議ではありません。
だからこそ、どんな目的で導入したのか、どう安全性を担保しているのかを丁寧に伝えることが必要です。

  • 「このセンサーのおかげで、夜間の転倒が減りました」
  • 「記録が正確になったことで、家族への報告がより詳しくできるようになりました」

こうした**“デジタルが支える温かさ”を言葉で説明し、安心感に変えていく**ことが、利用者・家族の理解を得るための鍵になります。


まとめ:介護の“温かさ”は、人と人が向き合う姿勢から生まれる

「デジタルは冷たい」という印象は、決して根拠のない感覚ではありません。
しかし、私たちがどう使うか、どう関わるかによって、デジタルは“冷たさの象徴”ではなく、“温かさの支え”になり得るのです。

  • 人の仕事を減らすのではなく、人が大切にできる時間を増やす
  • 遠ざけるのではなく、より深く寄り添う
  • 機械の正確さと、人のやさしさを、うまく補完しあう

そんな視点でDXを捉えることができれば、デジタルと温かさの両立は十分に可能です。

そしてそのバランスを築くのは、ツールではなく、**現場の一人ひとりの“姿勢と関わり”**なのです。

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