「DXはお金がかかる…」コスト削減しながら進める方法

「DX(デジタルトランスフォーメーション)は必要だとわかっているけど、お金がかかるから無理」
そんな声を、介護現場で耳にすることは決して少なくありません。特に中小規模の事業所では、資金的な余裕がなく、大規模な投資ができないという現実的な壁が立ちはだかります。

しかし一方で、**「小さな投資で大きな効果を上げている施設」**も確実に存在します。
DX=高額な機器やシステム導入という固定観念にとらわれず、段階的・戦略的に進めることで、コストを抑えながら成果を出すことは十分に可能なのです。

本記事では、「お金をかけずにDXを始めるにはどうすればいいのか?」という視点から、コスト削減と両立できるDX推進の方法について解説します。


DXは“すべてを変える”ことではなく“できることから始める”こと

まず押さえておきたいのは、「DXは一気にすべてをデジタルに変えることではない」ということです。
実際、成功している事業所の多くは、“1つの業務だけ”をデジタル化するところからスタートしています。

たとえば、介護記録。
紙の記録帳をタブレットやスマートフォンに置き換え、クラウド型の記録ソフトを使うだけでも、1人あたり1日20〜30分の業務削減につながります。
初期費用も数万円程度で済み、ランニングコストも月数千円からスタートできるツールが多数存在します。

重要なのは、「まず1つ成果を出すこと」。
小さな成功体験を重ねることで、「次もやってみよう」と現場の空気が変わり、段階的に他の業務へと広げやすくなるのです。


補助金・助成金をフル活用する

「費用が高いから無理」と感じている場合、まず検討すべきは公的支援制度の活用です。

現在、国や自治体は介護分野のICT・DX導入を強く後押ししており、各種補助金や助成金が用意されています。

代表的なものには以下があります:

  • 介護ロボット導入支援事業
  • ICT導入支援事業(記録ソフト・通信機器など)
  • 業務改善助成金(厚労省)
  • 中小企業デジタル化応援隊事業(経産省)

これらの多くは、導入費用の2/3~3/4を補助してくれるケースもあり、実質的な負担額は数万円~十数万円に抑えられることもあります。

また、導入サポートを行っているベンダーの中には、「補助金申請代行」や「申請書作成支援」を提供している企業もあるため、相談すれば実務負担を最小限に抑えることが可能です。


無料・低価格で始められるツールを活用する

近年は、介護業界向けに無料または低価格で利用できるクラウドサービスやアプリが多数登場しています。

たとえば:

  • 無料のグループチャットアプリ(LINE、Slackなど)で職員間の連絡をスムーズに
  • Googleフォームで体調報告や申し送りチェックシートをデジタル化
  • 無料プランの勤怠管理ソフトやシフト共有アプリを導入
  • 無料のビデオ会議ツール(Zoom、Google Meetなど)で家族との面談を遠隔で実施

こうしたツールは導入のハードルが低く、まず試してみることで、「どこにボトルネックがあるのか」「どんな機能が必要か」を見極める材料になります。

初めから完璧を求めず、“仮運用”として実験的に使ってみる姿勢が、結果的に無駄な投資を防ぐことにもつながります。


DXはコスト削減そのものにも直結する

一見すると「お金がかかる」と感じられるDXですが、長期的にはコスト削減に大きく貢献する可能性があります。

たとえば記録の効率化によって残業が減り、人件費が圧縮される
見守りセンサーの導入で夜間の巡視が減り、夜勤者の人数を最適化できる
事故の発生件数が減れば、家族対応や報告業務、医療機関連携の手間も大幅に減ります。

さらに、職員の離職率が下がれば、採用費や研修コストの削減にもつながるのです。
このように、DXは「投資」ではなく、**「ランニングコストの見直し手段」**として捉えるべきとも言えるでしょう。


最小限の投資で最大効果を得る3つのポイント

1つ目は、「明確な目的を持って始める」ことです。
単に「流行っているから」ではなく、「記録に時間がかかっているから」「夜勤が大変だから」と、現場の課題を起点にツールを選ぶことで、導入の効果がはっきり見えるようになります。

2つ目は、「試験導入→段階展開のステップを踏む」こと。
いきなり全体導入せず、1フロアや1ユニットで試験的に導入し、使い勝手や効果を確認してから全体に広げる方が、失敗のリスクもコストも小さく抑えられます。

3つ目は、「スタッフを巻き込む導入設計」。
使う人が「これならやってみたい」と思えるツールであることが何より重要です。
職員が不満を抱えながら導入しても、結局使われず、コストだけが残るという事態は避けなければなりません。


まとめ:DXは“身の丈に合った設計”が鍵

介護施設におけるDX化は、たしかに初期費用がかかる場合もあります。
しかし、そのすべてが「高額投資」である必要はなく、自分たちの規模・課題・業務内容に応じた“小さな一歩”から始めることが可能です。

大切なのは、「コストをかけずにできることは何か?」という視点と、「小さくても確実に成果が見える取り組みを選ぶ」姿勢です。
そして、得られた成果をもとに、次のステップへと進めていく柔軟な経営判断が、成功への鍵となります。

“コストが壁”と考えるのではなく、“コストと成果のバランスを設計する”こと。
それが、限られた資源の中でDXを進める介護施設の、最も現実的で確実な戦略と言えるでしょう。

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