介護業界でもDX(デジタルトランスフォーメーション)が進むにつれ、ICT(情報通信技術)を活用した業務の効率化や個別ケアの質の向上が実現されつつあります。
しかし、便利になればなるほど、同時に気をつけなければならないのが**「セキュリティリスク」**です。
介護施設や事業所では、高齢者の個人情報、医療・介護記録、職員の勤務状況といった極めてセンシティブな情報を日常的に扱っています。
一度でも情報漏えいや不正アクセスが起これば、利用者の信頼を失い、事業継続そのものに影響を与えかねません。
この記事では、介護現場において実際に想定されるセキュリティリスクと、その具体的な対策方法について整理し、安心・安全なICT活用のために押さえておきたいポイントをお伝えします。
介護現場に潜む主なセキュリティリスクとは?

1. 利用者の個人情報の漏えい
介護現場では、利用者の名前、住所、健康状態、家族構成、サービス利用履歴など、個人情報が非常に多く取り扱われます。
これらが紙で保管されている場合でも、タブレットやクラウドで管理されている場合でも、紛失・誤送信・閲覧ミスなどが起こる可能性は常に存在します。
2. パスワード管理の甘さによる不正アクセス
「パスワードを共有している」「ログイン状態のまま端末を放置する」などの行為は、内部不正や第三者のなりすましを招く原因となります。
特にスマートフォンやタブレットの使用が増える中で、物理的な端末管理とアカウント管理の徹底が不可欠です。
3. ウイルス感染・フィッシングメール
業務で使用するPCやタブレットがウイルスに感染した場合、システム障害だけでなく、保存されていた利用者情報が外部に流出するリスクもあります。
また、最近では、職員宛てに届いたメールをきっかけに不正アクセスされる**「フィッシング攻撃」も確認されており、“うっかりクリック”が大きな被害に繋がる**ケースも増加しています。
過去の事例から学ぶ、介護施設で起きた情報事故
事例1:紙の記録を紛失し、家族から指摘を受ける
ある訪問介護事業所では、紙の記録用紙を職員が車内に置き忘れたまま退勤。
翌朝、第三者によって発見され、内容を見た上で施設に連絡が入ったことで個人情報の流出が発覚しました。
このケースでは、職員への注意喚起とルール改定で再発防止を図ったものの、利用者家族からの不信感が拭えず、契約解除に至ったといいます。
事例2:パソコンのウイルス感染により情報が暗号化された
ある中規模施設では、職員のパソコンがウイルスに感染。
システムに保存されていた記録データが暗号化されてしまい、**「身代金」を要求するメッセージが表示された(ランサムウェア)**という深刻な事態が発生しました。
幸いバックアップから復旧できたものの、業務が3日間停止し、利用者や家族にも混乱が広がったと報告されています。
介護現場がとるべき主なセキュリティ対策
1. アクセス権限の明確化とID管理の徹底
すべての職員がすべての情報にアクセスできる状態は危険です。
利用者記録、医療情報、給与データなど、業務に応じて閲覧・編集権限を設定することが基本です。
また、アカウントの共有はNG。
個別IDでのログイン、定期的なパスワード変更を義務づけましょう。
2. 端末の持ち出し・保管ルールの整備
タブレットやスマートフォンの普及に伴い、情報が施設の外に持ち出されるリスクも増えています。
- 使用後は必ずログアウト
- 画面ロックを設定し、紛失時にはリモート消去が可能な端末を使う
- 業務以外のアプリやサイトの利用を制限する
といった**“端末管理の基本ルール”を文書化し、職員に徹底する**ことが重要です。
3. セキュリティ研修の定期実施
「セキュリティ対策は一部の管理者だけが知っていればいい」と思っていませんか?
現実には、日常業務の中で何気ない行動が事故の引き金になるケースがほとんどです。
- メールの添付ミス
- 個人情報が見える状態で画面を放置
- USBメモリにデータを入れて無防備に持ち歩く
こうしたリスクを回避するためには、年1~2回のセキュリティ研修を職員全体で受けることが効果的です。
ICT導入時こそ、セキュリティ対策の“再設計”を
DXを進める過程では、システムやアプリの導入が中心となりがちですが、セキュリティの設計は同時に進めなければなりません。
- 導入する記録ソフトにアクセス制限・暗号化・バックアップ機能はあるか?
- クラウド管理の場合、どこのデータセンターが使われているか?
- サービス終了時、データはどう削除されるか?
こうした点を確認し、“安心して使えるツールかどうか”を判断基準に入れることが、現場の安全を守るポイントになります。
まとめ:DXの恩恵を活かすために、セキュリティ対策は“必須条件”
介護の現場でICTを活用し、効率化や質の向上を目指すことは今や不可避の流れです。
しかし、テクノロジーが発展するほど、そこには新たなリスクも生まれます。
「使えるようにすること」と同時に、「安全に使い続けられること」を整えてこそ、DXは本当の意味で価値を発揮します。
- ルールの明文化
- 教育体制の整備
- システム・ツール選定時のセキュリティ確認
これらを“コスト”ではなく“施設の信用を守る投資”と捉え、組織全体で取り組んでいくことが、介護DX時代の必須スキルなのです。
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