介護DXは本当に現場を楽にする?メリット・デメリットを分析

介護業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、政府の後押しや技術の進歩によって急速に拡大しています。
介護記録のICT化、見守りセンサーの導入、AIによるリスク予測、音声入力、eラーニング――現場の“当たり前”がデジタルによって塗り替えられつつあります。

しかし現場からは、「DXって本当に楽になるの?」「むしろ余計な仕事が増えた」という声も少なくありません。
期待と現実のギャップに戸惑う施設もある今こそ、介護DXの“本当の効果”と“注意すべき落とし穴”を冷静に見つめ直すことが求められています。

本記事では、介護現場におけるDXのメリットとデメリットを具体的に整理し、どのように導入すれば“楽になるDX”にできるのかを探ります。


介護DXで本当に変わる?メリットの実感ポイント

1. 記録業務の負担が減る

多くの施設で導入されているのが、介護記録のICT化です。
紙で書いていた記録がタブレットやスマホに変わることで、記録にかかる時間が大幅に短縮されます。
特に音声入力やテンプレート機能を活用すれば、手書きで5分かかっていた記録が1分程度で完了するケースも。

「記録業務のために残業していた」「休憩時間を潰して記録を書いていた」という職員にとっては、明確な時間削減効果が実感できるでしょう。

2. 夜勤の見守りが“必要なときだけ”になる

センサーやAIカメラの導入により、利用者が起きたときや動きがあったときだけ通知が来る仕組みが整います。
これにより、巡視を毎時間行う必要がなくなり、夜勤者の身体的・精神的な負担が軽減されます。

ある施設では、導入前は2名夜勤体制だったものが、1名体制に移行しながら安全性を維持できたという報告も。
DXは単に“便利”ではなく、人材確保が難しい中でも運営を支える土台となるのです。

3. 情報共有がスムーズになる

クラウド型のシステムを使えば、申し送りやケア記録がリアルタイムで共有できるため、情報伝達のミスや漏れが減ります。
記録内容が自動で履歴として残るため、「聞いてなかった」「書き忘れた」といったトラブルも減少。

職員同士のコミュニケーションもスムーズになり、連携ミスによるストレスが軽減される効果もあります。


実は見落としがち?介護DXのデメリットと課題

1. 操作に慣れるまでに時間がかかる

特にICTに不慣れな職員にとって、新しいシステムの操作は心理的なハードルが高いものです。
「わからないから結局紙で書く」「入力ミスが増えて逆に時間がかかる」など、導入初期には現場の混乱が起こりやすいという課題があります。

成功している施設では、導入時に小規模から試し、**研修やマニュアルを整えて“わからない人を置き去りにしない体制”**を整えています。

2. ツールが増えすぎると、逆に非効率になることも

DXを進める過程で、あれもこれもとツールを導入しすぎると、情報の分散や操作の煩雑さが問題になります。

たとえば、

  • 記録はこのアプリ
  • シフト管理は別のシステム
  • 勤怠は紙
  • 申し送りは口頭+LINE

というように、ツールがバラバラだと、管理が複雑になり、現場の負担が増えてしまうのです。
最終的に「紙に戻した方が楽だった」となっては本末転倒。

統一感のあるシステム選定と、“現場全体の流れ”を見たうえでの導入設計が必要です。

3. “楽になる”には、導入後の運用設計がカギ

ツールを入れただけでは、業務が楽になるとは限りません。
「誰が何を、いつまでに、どう使うか」という業務フローの再設計を行わないと、結局は使いこなされず、無駄なコストになることも。

特に注意したいのは、「今までのやり方に新しいツールを“足すだけ”」という進め方。
このパターンでは仕事が減るどころか、逆に二重業務になってしまうケースも見られます。


“楽になるDX”にするために必要な3つの視点

1. 現場起点の課題把握
現場が一番困っていることは何か?から出発することが、DXを成功させる第一歩です。
たとえば、「記録が間に合わない」「夜勤がつらい」「申し送りが抜ける」など、職員の実感から導入対象を選ぶことで効果が出やすくなります。

2. 小さく始めて広げる設計
最初から全フロア、全業務に一気に導入するのではなく、1ユニット・1業務からの導入→定着→全体展開という流れが定番です。
成功体験を積みながら広げていくことで、現場の協力も得やすくなります。

3. “技術”ではなく“活用”を重視
良いツールを選ぶことよりも、「どう使うか」「誰が使うか」を明確にすることが、導入の成否を分けます。
ベンダーに任せきりにせず、**“運用設計こそDXの中核”**という認識が必要です。


まとめ:DXは“ただの導入”ではなく、“楽になる仕組み”の再設計

介護DXは、必ずしもすべての職場を楽にするとは限りません。
しかし、課題に合った導入と運用設計を行えば、確実に業務のムダや負担を減らすことができます。

「導入したけど、全然楽にならない」
その背景には、「使い方が定まっていない」「現場の声が反映されていない」「目的が曖昧だった」といった理由があることが多いのです。

DXは道具です。
道具をうまく使えば、現場は本当に楽になります。
そして、そのためには、トップと現場が一緒になって“働き方の再設計”に取り組む姿勢が何よりも重要です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました