DXに対応できる人材とできない人材の差が広がる問題

介護業界で急速に進むDX(デジタルトランスフォーメーション)。
記録のICT化、AIによる見守り、業務のクラウド管理――こうした技術の進化は、少人数で高いケア品質を維持するために欠かせない取り組みとなっています。

一方で、現場ではこんな声が聞こえてきます。

  • 「若い人はすぐに覚えるけど、年配職員はついていけない」
  • 「結局、できる人に業務が集中している」
  • 「あの人がいないと、誰も操作できない」

DX化が進むことで、“使える人材”と“使えない人材”の間に、見えない壁ができつつある現実があります。
これは職員間の格差を生むだけでなく、職場の人間関係や組織全体の雰囲気にまで影響を与える深刻な課題です。

この記事では、DX対応における人材格差の実態と、それを埋めるための取り組みについて解説します。


なぜ“人材格差”が広がってしまうのか?

1. ITスキルの習得スピードに差がある

年齢や経験、ITに対する慣れによって、ツールへの適応スピードには個人差があります。
特に40代以降の職員には「そもそもITに触れる機会が少なかった」「紙の方が安心」という心理的ハードルがあり、新しい仕組みに対する抵抗感も大きくなりがちです。

一方、20〜30代の職員は、日常的にスマホやアプリを使いこなしており、説明を受けなくても直感的に操作できてしまう
この“習得スピードの差”が、現場に明確な温度差を生み出します。

2. 使える人に業務が偏る構造が生まれる

DXに対応できる人材が限られていると、その人に負担が集中する傾向があります。

  • 新しいツールの設定はあの人だけができる
  • トラブル対応はいつも同じ人
  • 管理者が不在のときはシステムが回らない

このような状態では、**「できる人」も疲弊し、「できない人」はますます遠ざかる」**という悪循環に陥りやすくなります。


DXが生む“人材格差”が職場に与える影響

信頼関係やチームワークにひびが入る

職員の間でスキル差が明確になってしまうと、

  • 「あの人はできるから優遇されてる」
  • 「私は足手まといなんじゃないか」
  • 「若手ばかりが評価されている」

といった感情的な不満や不安が生まれやすくなります。

これは、単なるスキルの話ではなく、“組織内の心理的な分断”を生むリスクをはらんでいるのです。

DXへの抵抗感が強くなり、全体の定着を妨げる

「できる人だけが使っているツール」になってしまうと、DXは現場全体に定着しません。
そして、「私はもうついていけないから関係ない」と思う職員が増えれば、組織としての一体感も失われていきます。


差を“広げない”組織の取り組みとは?

1. “使える人”を育てるだけでなく、“全員で育つ”意識を持つ

ある施設では、ICT導入にあたり「ICTリーダー」制度を設け、若手職員を中心に操作支援の担当を任命しました。
しかし同時に、「ICTペア制度」も導入し、リーダー1人が“教えるだけ”ではなく、対象者と一緒に操作を学ぶパートナーになることを重視しました。

この“上下関係ではない学びの関係”が、年配職員にも受け入れられやすく、職場に**「教える人と教わる人が固定化しない」空気**をつくることに成功したのです。

2. 評価制度を“スキルより姿勢”に変える

DXの導入効果を評価する際、「使いこなせたかどうか」ではなく、「学ぼうとした姿勢」「取り組みに参加したかどうか」も評価の対象にすることで、“誰でも前向きに関われる環境”が整います。

これは、ベテラン職員が“経験を活かしながら新しいことにも関わる”ための支えにもなります。

3. デジタルとアナログを“排他的”にせず共存させる

すべてを一気にデジタル化し、「紙はもう使いません」と線を引いてしまうと、ついてこられない職員が脱落してしまいます。
「今はどちらでもOK」「段階的に切り替える」という柔軟な設計をすることで、少しずつ慣れる余地を残すことが可能です。


「差を活かす」ことが、次世代介護のチーム力になる

DX導入において、すべての職員が同じスピードで変化に対応することは現実的ではありません。
重要なのは、「スキルの差」を組織としてどう受け止め、どう扱うかです。

  • 若手はツール操作が得意
  • ベテランは利用者との関係性づくりが得意
  • 管理者は全体調整が得意

このように、それぞれが得意な領域を活かしながら、「役割分担」と「相互支援」が自然に生まれるチームをつくることが、DX時代の介護現場に求められています。


まとめ:“人材の差”ではなく、“組織の支え方”の差

DXによって人材格差が生まれるのではなく、その格差を放置したときに“組織の分断”が起きるのです。
逆に言えば、スキルの差があっても、それを支え合う文化があれば、DXはチームを強くするチャンスになります。

介護DXの本質は、“できる人”だけで走ることではありません。
“全員で前に進める職場づくり”が、最も重要なDX施策なのです。

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