DX化で介護事業の売上は上がる?利益を生む戦略

「DX化はコストばかりかかって、利益につながらないのでは?」
介護事業所の経営者や管理職から、こうした声が聞かれることは少なくありません。
デジタル化という言葉には希望がある一方で、「実際に売上が上がるのか」「利益を生み出せるのか」というリアルな視点からの問いは、避けて通れない現実です。

そもそも、介護業界は“高収益ビジネス”ではありません。報酬単価は国の制度に基づき、収益の上限がある程度定まっている世界。
そのなかで、DX化が「投資」に見合う結果を出すかどうかは、経営に直結する重要な判断材料になります。

本記事では、「DX化によって本当に売上が上がるのか?」というテーマを、収益構造の視点から検討し、利益を生み出すために必要な具体的な戦略を紹介します。


DXは“売上”そのものではなく、“売上を上げる土台”を整える

まず最初に明確にしておくべきなのは、DXはそれ自体が売上を上げる“手段”ではなく、“環境を整える道具”であるという点です。

たとえば、クラウド型の介護記録システムを導入したからといって、次の日から利用者が増えるわけではありません。
見守りセンサーを設置したからといって、報酬単価が急に高くなるわけでもありません。

しかし、DXによって記録業務が効率化され、スタッフの負担が軽減し、ミスが減り、事故が防げるようになれば、どうなるでしょうか?

職員の離職率は下がり、採用コストが減る。
職員1人あたりが対応できる利用者数が増える。
サービスの質が上がり、クレームが減る。
これらはすべて、“売上を守り、利益を生む体質”をつくる動きそのものなのです。


DX化が売上・利益に直結する3つのポイント

1. 稼働率アップによる売上最大化

介護施設における売上の基盤は「利用者数」と「稼働率」によって成り立ちます。
どれほど報酬単価が設定されていても、空床が続けば売上は落ち込みます。
一方、DX化によって業務が効率化されると、職員の余力が生まれ、1人あたりが担当できる利用者数の上限が高くなるという効果があります。

さらに、事故リスクや感染症の早期検知、記録の精度向上によって家族の信頼が高まり、「この施設なら安心」と思われることで、口コミや紹介経由での利用者増にもつながります。
つまり、間接的にではあっても、稼働率の向上という形で売上増を支えるのです。

2. 加算取得のサポート

介護事業では、各種加算(科学的介護推進体制加算、LIFE加算、夜勤体制加算など)を取得できるかどうかが、売上を大きく左右します。
これらの加算は、適切な記録やデータ提出が前提条件となっていることが多く、従来の手書き管理では取得が難しいという課題がありました。

ところが、LIFE(科学的介護情報システム)に連携した介護ソフトを導入すれば、必要な情報を自動で抽出・整理し、スムーズに提出できるようになります。
この結果、申請業務の簡素化と加算取得率の向上という、売上への直接的な効果が見込めるのです。

3. 離職率低下と採用効率の改善

DXによる業務効率化は、職員の働きやすさに直結します。
記録が簡単になり、見守り負担が減り、業務分担が明確になれば、ストレスも軽減されます。
その結果、離職率が下がり、求人コストが減り、採用後の定着率が上がるという好循環が生まれます。

ここで重要なのは、職員が定着することで、“空床が続かない経営”が可能になるという点です。
スタッフが足りずに新規受け入れを制限せざるを得ないケースが多い中、職員が安定している施設ほど、売上の安定性も高まるのです。


成功している施設は「売上よりも“キャパシティ”に目を向けている」

DX導入が利益を生むかどうかの判断軸は、「売上」そのものではなく、「施設が持つ対応力・処理能力=キャパシティ」をどう高めたかにあります。

東京都内でデイサービスを運営するある事業者では、タブレット記録と送迎アプリを導入したことで、1人の職員が複数業務を同時に担えるようになりました。
結果として、職員数を増やさずに利用者数を拡大し、稼働率を95%以上に保っています。
売上は5年間で約1.4倍に伸びましたが、特別な営業戦略を行ったわけではなく、「受け入れられる体制」が整ったことが売上増に直結したと語られています。

このように、DXは「攻めの営業活動」ではなく、「受け入れ体制の改革」として捉えると、本当の利益創出につながるのです。


DXで利益を生む施設に共通する姿勢

実際に成果を出している事業所には、いくつかの共通点があります。

まずひとつは、「目先の数字に惑わされない」こと。
初期投資や導入の手間があったとしても、その後の生産性向上や安定運営に重きを置き、中長期視点で投資判断を行っていることが多いのです。

また、「現場の声を活かす」ことにも長けています。
システム導入後に必ずアンケートやヒアリングを実施し、「どこが使いやすかったか」「何が負担になっているか」を可視化。改善を重ねることで、“使われるDX”として根付かせています。

最終的には、**「無理なく、無駄なく、持続的に運用できる仕組み」**をつくったところが、利益を生むDXにたどり着いているのです。


まとめ:DXは利益を「直接」生まないが、「土台」を整える

DX導入が一瞬で売上を上げる魔法ではないことは明らかです。
しかし、DXは利益を生むために必要な土台=組織の処理能力、稼働力、加算取得力、職員の定着力を育てる最も有効な手段でもあります。

介護業界において「利益を生む」ということは、目に見える数字だけでなく、事故を減らし、離職を防ぎ、働きやすさを維持しながら、利用者数を安定的に増やすこと。
そのために必要なのは、テクノロジーの導入そのものではなく、導入後に“定着させ、活かす”経営力なのです。

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