「おばあちゃん、孫の動画をLINEで送ったから見てね!」 「こちらのサービスは、ウェブサイトからの申し込みが必須となっております」
私たちの社会が急速にデジタル化する中で、スマートフォンは単なる通信機器ではなく、生活に不可欠なインフラとなりつつあります。しかし、その一方で、すべての高齢者がこの変化に対応できているわけではありません。
スマホを使いこなし、家族とのコミュニケーションや便利なサービスを享受する高齢者がいる一方で、操作方法がわからず、社会の変化から取り残されてしまう高齢者もいます。この「使える人」と「使えない人」の間に生まれるデジタルデバイド(情報格差)は、今後ますます広がり、深刻な社会問題に発展するのでしょうか。
この記事では、高齢者を取り巻くデジタル格差のリアルな実態を解説し、それがもたらす問題、そして社会全体で取り組むべき解決策について考察します。
1. 単なる「便利」の差ではない。生活の質を左右するデジタル格差

かつて、高齢者がスマホを使えないことは「少し不便」なだけでした。しかし今、その意味合いは大きく変わりつつあります。社会のあらゆるサービスがスマートフォンを持つことを前提に設計され始めたことで、この差は生活の質(QOL)そのものを左右する大きな格差となり始めています。
日常生活に浸透する「スマホ前提」のサービス
ほんの数年前まで、ほとんどのことは電話や書面、対面で完結できました。しかし現在はどうでしょう。
- 飲食店の注文がタッチパネルやQRコードのみ
- 銀行の窓口業務が縮小され、手続きはネットバンキングに移行
- 行政サービスの申請や地域のお知らせがオンライン中心に
- キャッシュレス決済限定の割引キャンペーン
このように、デジタルを介さない選択肢が少しずつ社会から失われています。これは、スマホを使えない高齢者にとっては、これまで当たり前に享受してきたサービスへのアクセスが困難になることを意味します。単なる利便性の差ではなく、社会参加の機会を奪われかねない深刻な問題なのです。
2. スマホを使いこなす高齢者たち。広がる「つながり」と「安心」
一方で、スマートフォンを積極的に活用する「デジタルシニア」は、テクノロジーの恩恵を最大限に享受し、より豊かで安心な生活を送っています。彼らの生活は、スマホがない生活とは具体的にどう違うのでしょうか。
家族や地域とつながるコミュニケーション革命
多くの高齢者にとって、スマホを持つ最大の動機は「家族とのコミュニケーション」です。特に、メッセージアプリ「LINE」は、その筆頭です。遠方に住む子どもや孫と、写真や動画を交えて気軽に日常を共有できることは、何物にも代えがたい喜びであり、孤独感の解消に繋がっています。
また、地域の自治会やシニアサークルの連絡網がLINEグループに移行するケースも増えており、スマホがなければ地域の情報から孤立してしまうことにもなりかねません。
暮らしを豊かにする「情報の窓」と「安全網」
スマホは、コミュニケーションだけでなく、生活のあらゆる場面で高齢者を支えるツールとなります。
- 情報の窓として:健康に関する悩みや趣味の情報を、いつでも好きな時に調べることができます。
- 買い物の味方として:ネットスーパーを使えば、重い米や飲料を自宅まで届けてもらえます。
- 安全網として:地図アプリがあれば、慣れない場所でも道に迷う心配が減ります。また、地震や豪雨などの災害情報をリアルタイムで受け取れるため、迅速な避難行動にも繋がります。
このように、スマホは高齢者の行動範囲を広げ、日々の暮らしに安心と彩りを与えてくれるのです。
3. 取り残される不安。格差を埋めるために社会ができること
デジタルシニアが享受する恩恵が大きければ大きいほど、スマホを使えない高齢者が感じる疎外感や不安は深まります。この「デジタル格差」という名の新たな社会的孤立を、私たちはどうすれば防げるのでしょうか。
「デジタル前提社会」が生む新たな孤立
スマホがなければ、孫の成長をリアルタイムで見ることができない。近所のスーパーの特売情報が分からない。行政手続きのために、数少なくなった窓口で長時間待たなければならない。こうした小さな不利益の積み重ねが、「自分だけが社会から取り残されている」という大きな不安と孤立感を生み出します。
この問題は、本人の「努力不足」で片付けてはなりません。社会全体の仕組みがデジタルへと移行する中で、意図せずとも人々を置き去りにしてしまう構造的な課題なのです。
格差解消に向けた社会の取り組み
幸い、この課題解決に向けた取り組みも始まっています。責任を個人に押し付けるのではなく、社会全体でサポートする体制づくりが不可欠です。
- 行政・自治体によるスマホ教室の開催:全国の自治体で、高齢者向けの無料または安価なスマートフォン講座が開催されています。基本操作からLINEの使い方、ネット詐欺対策まで、丁寧に教える場が設けられています。
- 通信事業者によるシニア向け端末・プランの開発:文字が大きく、操作が簡単な「らくらくスマートフォン」のようなシニア向け端末や、専門スタッフが電話で操作方法を教えてくれるサポート付きの料金プランなどが提供されています。
- 家族や地域コミュニティによる寄り添い支援:最も大切なのは、身近な人々のサポートです。家族が根気強く操作を教えたり、地域のボランティアが個別の相談に乗ったりといった、人間的なつながりこそが、テクノロジーへの不安を取り除く最大の力となります。
4. まとめ:誰も置き去りにしない、デジタル活用の未来へ
スマホを使える高齢者と使えない高齢者の格差は、単なる利便性の差を超え、社会参加や安全確保にも関わる重要な問題です。このデジタルデバイドを放置すれば、新たな孤立を生みかねません。行政や企業、そして私たち家族や地域が一体となり、誰もがデジタルの恩恵を受けられるよう、教え、支え合う社会を築くことが今、求められています。
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