高齢者がプログラミング!?介護施設での新しい挑戦

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「おばあちゃん、最近プログラミングを始めたんだ」

もし、介護施設に入居する親や祖父母からこんな言葉を聞いたら、あなたはどう思いますか。「難しそう」「若い人のものでは?」と驚かれるかもしれません。

しかし今、全国の一部の先進的な介護施設やデイサービスで、高齢者がプログラミングを学ぶという、これまでの常識を覆す「新しい挑戦」が始まっています。

もちろん、目的はプロのプログラマーを育成することではありません。その狙いは、楽しみながら脳の認知機能を鍛え、他者とのつながりを生み出し、高齢者に新たな「生きがい」と「役割」をもたらすことにあります。

この記事では、介護現場で静かに広がる高齢者向けプログラミングのリアルな実態と、それがもたらす驚くべき可能性について解説します。

1. プログラミングは「現代の読み書きそろばん」?

高齢者がプログラミングと聞くと、多くの人が英語や数字が並んだ難解なコードを想像するでしょう。しかし、介護レクリエーションで活用されているのは、そうした専門的なものではありません。

###使うのは「スクラッチ」などのビジュアル言語 現場で主に使用されるのは、MITメディアラボが開発した「Scratch(スクラッチ)」のような、ビジュアルプログラミング言語です。

これは、命令が書かれたブロックを、まるで積み木やパズルのように組み合わせることで、キャラクターを動かしたり、簡単なゲームやアニメーションを作成したりできるツールです。文字をキーボードで入力する必要はほとんどなく、マウスや指でのドラッグ&ドロップが基本操作。そのため、IT機器に不慣れな高齢者でも、直感的に「自分の思った通りに、画面の中のものを動かす」というプログラミングの基本的な楽しさを体験できます。

これはまさに「現代の読み書きそろばん」。計算や文字の学習が脳の基礎体力を育むように、プログラミングは論理的に物事を考える力を養うための、万人に開かれたツールなのです。

2. 論理的思考を鍛える。認知症予防への新しい試み

プログラミング体験が、認知症予防の観点から大きな期待を集めている理由は、そのプロセスが脳の様々な機能をフル活用する、優れた知的活動であるためです。

「順序立てて考える力」を養う

プログラミングの基本は、「目的を達成するために、どのような命令を、どのような順序で実行すればよいか」を考えることです。

例えば、「猫のキャラクターを右に10歩歩かせる」という単純な目的のためにも、

  1. 「スタート」の旗がクリックされたら(きっかけ)
  2. 「10歩動かす」というブロックを組み合わせる(命令)

というように、物事を順序立てて考える必要があります。この論理的思考のプロセスは、日常生活や社会生活を営む上で不可欠な「実行機能」と呼ばれる脳の働きを直接的に鍛えます。

試行錯誤が脳を活性化させる

プログラミングにエラーはつきものです。「思った通りに動かない。なぜだろう?」と考え、ブロックの組み合わせを変えて試し、原因を見つけ出して修正する。この**試行錯誤(デバッグ)**のプロセスこそが、脳を最も活性化させます。

「こうすれば、こうなるはずだ」という仮説を立て、実行し、結果を検証する。この科学的な思考の繰り返しは、脳に心地よい刺激と負荷を与え、思考の柔軟性や問題解決能力を維持・向上させる効果が期待できるのです。

3. 「教わる側」から「創る側」へ。孫との新しい共通言語

プログラミングが高齢者にもたらすものは、脳機能への効果だけではありません。むしろ、その精神的な効果こそが、最も大きな価値を持つと言えるかもしれません。

「できた!」という達成感が自己肯定感を高める

自分の手でキャラクターを動かし、簡単なゲームを完成させた時の「できた!」という達成感は、高齢者に大きな自信と喜びを与えます。介護施設での生活では、どうしても「何かをしてもらう」「教わる」という受け身の立場になりがちです。

しかし、プログラミングは、高齢者が自らの意思で何かを**「創り出す」主体的な活動**です。この「創る側」に回る経験が、失われがちな自己肯定感を育み、「自分はまだ新しいことに挑戦できる」という前向きな気持ちを引き出します。

世代を越えたコミュニケーションの創出

プログラミングは、**孫世代との「新しい共通言語」**となり得ます。今や、小学校ではプログラミングが必修化されており、多くの子どもたちがスクラッチなどのツールに親しんでいます。

「おじいちゃん、こんなゲーム作ったんだよ」 「このキャラクターの動かし方、教えてくれないかい?」

これまで会話のきっかけが少なかった祖父母と孫が、プログラミングという共通のテーマで、教え、教えられる対等な関係を築くことができます。自分が作った作品を孫に自慢する。そのために練習に励む。そんな新しい目標が、日々の生活に彩りと活気をもたらすのです。

4. まとめ:創造性が、高齢者の未来と可能性を拓く

介護施設でのプログラミングは、単なるIT教育ではありません。論理的思考を鍛え、認知機能の維持を目指す新しい挑戦です。そして何より、高齢者が「教わる側」から「創る側」へと変わり、孫世代との共通言語を持つことで、新たな生きがいと自信を育みます。この創造的な活動が、高齢者の未来と可能性を大きく拓くのです。

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