「パソコンに『ウイルスに感染しました』と警告が出たんです。電話しないと…」 「SNSで知り合った方から、事業への投資を勧められていて…」
日々、利用者の生活に寄り添う介護職の皆様。最近、このような相談や、利用者の「いつもと違う」言動に胸騒ぎを覚えた経験はありませんか?
スマートフォンの普及は高齢者の生活を豊かにする一方で、彼らを悪質なネット詐欺の危険に晒しています。社会経験が豊富で真面目な高齢者ほど、巧妙化する詐欺師の罠に陥りやすいのが実情です。
家族と離れて暮らす高齢者にとって、日常的に接する介護専門職は、金銭や個人情報を守るための「最初の防波堤」となり得ます。この記事では、介護職の皆様が知っておくべき、高齢者を狙うネット詐欺の最新手口と、被害を未然に防ぐための具体的なポイントを解説します。
1. なぜ高齢者が狙われる?詐欺師が利用する心の隙

高齢者がネット詐欺のターゲットになりやすいのは、単に「ITに不慣れだから」という理由だけではありません。詐欺師は、加齢に伴う心身の変化や、高齢者特有の心理巧みに利用してきます。
信頼と親切心につけ込む手口
長年の社会生活で培われた「人を信じる心」や、困っている人を助けたいという「親切心」が、詐欺師にとっては格好の的となります。「公的機関からの重要なお知らせ」「有名企業からの当選通知」といった権威性を装った偽の連絡を信じ込み、疑うことなく指示に従ってしまうケースが後を絶ちません。
「孤立」と「不安」が判断を鈍らせる
社会的につながりを感じたいという気持ちは、誰にとっても自然なものです。しかし、その「孤立感」は、SNSなどを通じて親密な関係を装い金銭を要求する「ロマンス詐欺」の温床となります。
また、「健康」や「お金」に対する将来への不安も、判断力を鈍らせる大きな要因です。「このままだと大変なことになる」という偽の警告(サポート詐欺)や、「あなただけが儲かる」といった甘い投資話に、「誰にも迷惑をかけたくない」という思いから一人で抱え込み、被害に遭ってしまうのです。
2. 介護職が気づける「いつもと違う」5つの危険信号
介護職は、利用者の日々の小さな変化に気づける、最も身近な専門家です。詐欺被害の多くは、その前段階で何らかの予兆が現れます。以下の「いつもと違う」危険信号に気づくことが、被害を未然に防ぐための第一歩です。
- お金に関する会話の変化 「急いでお金を振り込まないといけない」「今なら割引で修理できるらしい」など、突然、支払いを急ぐような言動や、金銭的な不安を口にする頻度が増える。
- PC・スマホ利用中の不審な言動 介護職が部屋に入ると、慌ててパソコンの画面を隠したり、スマートフォンの通知を異常に気にしたりする。これまで以上に長時間利用し、話しかけても上の空である。
- 見慣れない警告画面やポップアップ パソコンの画面に「ウイルスを検出しました」「今すぐお電話ください」といった大音量の警告画面が出たままになっている。
- 不審なメールやSMSの話題 「税務署から還付金のメールが来た」「大手通販サイトから未納料金の連絡が来た」など、公的機関や有名企業を名乗る、にわかには信じがたい内容の話をする。
- 新しい「人間関係」の登場 「SNSで知り合った外国の軍人さん」「投資を教えてくれる先生」など、会ったことのない人物との親密な関係を頻繁に口にする。
3. 守るための具体的アクション。利用者と家族を繋ぐ連携術
これらの危険信号に気づいた時、介護職はどのように対応すべきでしょうか。専門職として、利用者のプライバシーと自己決定権を尊重しつつ、冷静かつ的確に行動することが求められます。
「否定しない傾聴」で、相談しやすい関係を築く
最も重要なのは、頭ごなしに「それは詐欺だ!」と否定しないことです。利用者は、自分が騙されているとは夢にも思っていません。否定的な態度は、かえって利用者の心を閉ざさせ、状況を悪化させる可能性があります。
まずは「そうなんですね、詳しく教えていただけますか?」と、不安な気持ちに寄り添い、**否定せずに話を聴く(傾聴)**姿勢が大切です。利用者が「この人になら話しても大丈夫だ」と感じる信頼関係を築くことが、すべての基本となります。
被害を未然に防ぐ「4つの合言葉」を共有する
日々のコミュニケーションの中で、雑談を交えながら、ネット詐欺から身を守るためのシンプルな「合言葉」を繰り返し伝えることも有効です。
- 「急かされても、すぐに払わない」
- 「個人情報は、絶対に入力しない」
- 「うまい話は、まず疑う」
- 「必ず誰かに、まず相談」
この4つを普段から伝えておくだけで、いざという時に利用者が立ち止まるきっかけになります。
重要な役割は「家族への的確な情報連携」
介護職の最も重要な役割は、利用者のプライバシーを守りつつ、客観的な事実をケアマネージャーや家族(身元引受人など)に正確に報告・連携することです。
「〇月〇日、パソコンに警告画面が表示されており、ご本人は『電話しないと』と少し興奮したご様子でした。お話を伺い、一旦何もしないで様子を見ましょう、とお伝えしてあります」 このように、主観的な「詐欺だ」という判断ではなく、観察した客観的な事実を伝えることで、家族も状況を冷静に把握し、次の対応を検討しやすくなります。介護職は、利用者と家族、そして時には消費者センターや警察といった専門機関を繋ぐ、重要なハブとなるのです。
4. まとめ:介護職は、詐欺から守る「最初の防波堤」
高齢者のデジタル利用が進む今、介護職はネット詐欺から利用者を守る重要な役割を担います。日々のコミュニケーションから「いつもと違う」危険信号を察知し、否定せずに耳を傾け、家族や関係機関へ的確に繋ぐこと。専門職としての冷静な観察眼と連携が、詐欺被害を未然に防ぐ「最初の防波堤」となるのです。
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