AIがつくるケアプラン、ケアマネ不要の時代が来る?

介護保険制度において、利用者一人ひとりに合わせたサービスを組み立てるために欠かせない存在が「ケアマネジャー(介護支援専門員)」です。利用者本人の身体的・精神的な状態、生活環境、家族の支援状況など、さまざまな要素を踏まえてケアプランを作成する専門職として、現場を支えています。

しかし近年、「AIがケアプランを自動で作成する」という技術が急速に進歩し、介護業界にもその波が押し寄せています。既に一部では試験運用が始まり、「このままいけばAIにケアマネの仕事を奪われるのでは?」という懸念すら聞こえてくるようになりました。

果たして、本当にそんな未来は訪れるのでしょうか?
そして、AIにケアプランは任せられるのでしょうか?
今回は、AIによるケアプラン作成の実例と可能性、そして人間の専門職であるケアマネの役割の今後について、深く掘り下げていきます。


ケアプランとは?そしてなぜ“AI化”の対象になるのか

ケアプランとは、介護保険サービスを利用するにあたって、「どのような支援を、どの事業所で、どれくらいの頻度で受けるか」を決める計画書です。要介護度、主治医の意見、家族の希望、利用者本人の生活歴、さらには季節や地域資源との関係までを考慮し、総合的に判断して組み立てられます。

その業務量は膨大です。ケアマネは1人あたり平均30〜40名程度の担当利用者を抱えながら、定期訪問、モニタリング、記録、会議、関係各所との調整を行っています。加えて、計画書は定期的な更新や見直しも求められ、**「書類作成に追われ、本来の対人支援に集中できない」**という声も後を絶ちません。

こうした背景から、AIが過去の膨大な事例やデータを元に、「最適なケアプラン案」を自動で提示する技術が注目されているのです。


AIがケアプランを作成するって、どういう仕組み?

AIによるケアプラン作成は、主に3つのステップで行われます。

まず、利用者のプロフィール、バイタルデータ、既往歴、要介護度などを入力します。これらの情報をもとにAIは、過去の類似ケースを分析し、成功したプランの傾向や失敗のパターンを比較。次に、その分析結果から、目標設定やサービス選定、頻度、連携機関などを含む「ケアプラン案」を提示します。

このとき注目すべきは、AIは単に定型文を埋めているのではなく、利用者の状態の“傾向”や“進行リスク”を含めて判断しているという点です。たとえば、「歩行速度がここ1年で20%低下している」「認知症の兆候が表れている」など、数値や記録に基づく見通しから、先回りした支援計画が組み込まれることもあります。


実際の導入事例と現場の声

すでに一部の自治体や介護事業者では、AIによるケアプラン作成支援の導入が始まっています。大阪府内のある地域包括支援センターでは、試験的にAIプラン作成ソフトを導入。高齢者の基本情報を入力すると、わずか数十秒で計画案が提示される仕組みが整備されました。

職員たちは「作成のたたき台として非常に役立つ」と語ります。これまではゼロから考える必要があったケアプランが、AIの提案をベースに検討することで、議論がより深まりやすくなったそうです。特に新人や経験の浅いケアマネにとっては、過去事例のデータベースを“見る”ことなく、提案を通じて学べるというメリットもあるといいます。

また、他の事業所では、AIが提示するプランと人間の判断とを比較検証し、実際の利用者の満足度や状態の変化を追跡する実証実験も行われており、一定の成果が確認されています。


AIが得意なこと、苦手なこと

AIは膨大なデータを処理し、数値的な判断を基に計画を立てることができます。人間では見逃しがちな微細な変化や、過去には予測困難だった傾向を分析し、合理的な判断を下すのは得意中の得意です。結果として、記録ミスの防止や、ケアの抜け漏れを減らす効果が期待されています。

一方で、AIには限界もあります。たとえば、利用者が抱える「本音の不安」や「言葉にならない気持ち」、家族間の人間関係、地域コミュニティとの繋がりといった、“定量化できない要素”には対応しきれません。機械的に「この人には週3回のデイサービスが最適」と判断されても、本人の希望は「近所の友達と週1回会えれば十分」というものかもしれないのです。

ケアプランは単なるサービスの組み合わせではなく、その人が“どう生きたいか”を反映する人生設計の一部です。そのため、AIの出す案をそのまま採用するのではなく、それをもとに人が“意味づけ”し、必要な修正や判断を加えるプロセスが欠かせないのです。


ケアマネは不要になるのか?

この問いに対して、結論を言えば「AIが進化しても、ケアマネという職業はなくならない」です。むしろ、AIが当たり前のように使われる未来において、ケアマネの役割はより高度で人間的なものに変化していくと考えられています。

たとえば、AIが作ったプランをそのまま実行するのではなく、「この人にはこのタイミングで、あえて休息を優先したい」と判断するセンスや、「家族との関係を良くするためにサービスを控える」などの調整力は、人間にしかできません。さらに、計画を説明する際に、利用者の目線に合わせて言葉を選び、安心感を与える力もAIには真似できない領域です。

AIによってルーティン業務が軽減されれば、ケアマネは“より人と向き合う時間”を持てるようになります。これは、職員にとっても、利用者にとっても望ましい未来ではないでしょうか。


まとめ:AIは“共に考えるもうひとりのケアマネ”になる

AIがケアプランを作成する時代は、すでに始まっています。
けれどそれは、「ケアマネが不要になる」という話ではありません。むしろ、AIの分析力やデータ処理能力を借りることで、ケアマネの仕事は“機械的な作業”から、“人としての価値を最大限に発揮できる仕事”へと進化しつつあるのです。

計画を立てるのはAIでも、それを“人の言葉”にするのはケアマネです。
数値で見える部分をAIが補い、見えない心の部分を人が汲み取る。
その協働の中で、これからのケアはより柔らかく、より精密に、一人ひとりの暮らしに寄り添っていくのかもしれません。

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