介護人材不足の解決策としてのDX導入の可能性

介護業界が直面している最大の課題――それは「人が足りない」こと。
厚生労働省の発表によれば、2025年には約32万人の介護人材が不足する見込みとされ、地方や小規模施設ではすでに人手が足りずに運営が困難になっているケースも出ています。

こうした状況を受け、業界全体で注目を集めているのがDX(デジタルトランスフォーメーション)の導入による人材不足の補完という視点です。
「人の代わりにロボットやシステムが仕事をする」――それはSFのように聞こえるかもしれませんが、現実にはすでに各地の施設で、DXによって**“人が足りない中でもサービスを維持する”体制**が構築され始めています。

では、DXは本当に人材不足を解決できるのか?
どこまで代替できるのか?
そして、導入に成功している施設は何が違うのか?
本記事では、現実的な課題とともにその可能性を探ります。


人が足りないなら“仕事の総量”を減らす発想を

介護の仕事には、専門性の高いケアだけでなく、記録作業、掃除、洗濯、巡視、申し送りなどのルーチンワークが膨大に存在します。
人材不足が叫ばれる今、それらすべてをこれまでと同じ人手でこなすのは限界があります。

そこで考えるべきなのが、**「仕事そのものをどう再構成するか」**という視点です。
すべてを人間がやらなければいけないという考えをいったん手放し、
“機械が代行できる部分”と“人間が担うべき部分”を整理することで、業務の総量そのものを減らすことが可能になるのです。

DX導入とは、単に便利な機器を導入することではなく、「人手が減ってもまわる仕組み」をつくるための手段なのです。


実際にDXが人手不足を補っている現場

夜勤1人体制を支える「見守りシステム」

あるグループホームでは、以前は夜勤2名体制が必要でしたが、見守りセンサーとAIカメラの導入によって夜間の巡視が効率化され、現在は1名体制で運営しています。

センサーが起床・離床・転倒などの異常を検知し、スマートフォンに通知を送る仕組みです。
これにより、常に巡回する必要がなくなり、「必要なときだけ動く」体制に変化しました。
同時に、職員の負担が減ることで離職率も改善し、新たな採用に頼らなくても業務を維持できるようになったのです。

記録の音声入力によって「業務時間を短縮」

別のデイサービスでは、記録業務を音声入力対応のタブレットで行うようにしたところ、1人あたり1日20〜30分の時間短縮に成功しました。
これまで残業や昼休み返上で行っていた記録作成が、勤務時間内に完結するようになり、同じ人数でも対応できる利用者数が増えたという報告があります。


DX導入が「人を減らす」のではなく「人を活かす」理由

DX導入に対して、「人がいらなくなるのでは」という不安が現場から上がることがあります。
しかし実際には、成功している施設の多くが、“人がもっと大切にされる環境”を実現しているのです。

どういうことかというと、
ルーチンワークや確認作業など、誰でもできる部分はシステムやセンサーに任せ、
「対話」「観察」「個別対応」といった人にしかできないケアに集中できるようになるということです。

職員に余裕が生まれることで、利用者にじっくり向き合える時間が増え、結果としてケアの質が向上し、職員のやりがいも増すという好循環が生まれています。

人手不足の中でも、限られた職員一人ひとりの力を最大限に活かすこと。
それが、DXがもたらす最も大きな価値の一つなのです。


DXによって“採用しなくても済む”組織をつくる

人材を補うために新たに採用しようとしても、なかなか人が集まらない。
これは多くの施設が直面する現実です。
求人広告を出しても反応が薄く、採用してもすぐに辞めてしまう――その悪循環を繰り返すよりも、今いる職員で無理なくまわせる仕組みをつくった方が、はるかに現実的です。

たとえば、

  • DXによって事務作業を簡素化
  • 1人あたりの担当利用者数を最適化
  • 無理のないシフトを自動作成
  • 教育コンテンツをeラーニングで内製化

こうした工夫によって、採用にかかるコストや人材配置の柔軟性を高め、採用依存から脱却することが可能になります。


導入を成功させるためのポイント

人材不足対策としてDXを活かすには、以下の点に配慮することが重要です。

まずひとつは、現場の声を起点にすることです。
「記録が大変」「巡視がきつい」といった日々の困りごとにこそ、導入のヒントがあります。

二つ目は、いきなり大規模に進めないこと
1つのユニットや業務からスタートし、成功体験を得たうえで、段階的に拡大していく方が、無理なく定着します。

そして三つ目は、ツールより“運用設計”を重視することです。
同じセンサーを導入しても、「どう通知し、どう対応するか」が明確でなければ、現場に負担を増やすだけになってしまいます。
運用まで含めた全体設計こそが、成功の鍵になります。


まとめ:人材不足時代の“前向きな打ち手”としてのDX

介護業界は、今後も労働人口の減少という厳しい現実に向き合っていかざるを得ません。
それでも、サービスの質を落とさず、職員を守りながら持続可能な運営を続けるために、DXは「逃げ道」ではなく、「前向きな打ち手」になり得るのです。

人が足りないからこそ、仕組みで支える。
人数ではなく、働き方を変えることで乗り越える
そのためにこそ、今、経営層がDXに本気で向き合う必要があります。

「人が足りない」ことを嘆くのではなく、「人の力を最大限に活かせる体制をどうつくるか」――
その問いこそが、これからの介護経営の本質なのかもしれません。

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