デジタルツールが増えると職員の負担が増える?現場の本音

介護業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、いまや避けられない流れとなりました。
国の補助制度やテクノロジーの進歩に後押しされ、多くの施設で介護記録のICT化、見守りセンサー、シフト管理アプリ、職員間のコミュニケーションツールなど、複数のデジタルツールが導入され始めています。

しかし、その一方で、現場からはこんな声も聞こえてきます。

「ツールが増えすぎて、むしろ仕事が複雑になった」
「あっちにも、こっちにも入力しなきゃいけない」
「便利になるはずが、なぜか疲れる」

これは単なる“慣れの問題”ではありません。
デジタルツールの導入方法次第では、本来軽減すべき職員の負担が、逆に増えてしまうこともあるのです。

本記事では、「なぜDXが負担になるのか?」という現場の本音に耳を傾け、“本当に使えるデジタル化”にするための考え方と実践例をご紹介します。


ツールが“増える”ことで起きている現場の混乱

情報の“入力場所”が分散している

介護施設の現場では、たとえばこんなツールが同時に使われていることがあります。

  • 介護記録:A社の記録ソフト(タブレット)
  • 勤怠管理:B社のクラウド打刻アプリ
  • シフト:Excel管理+紙掲示
  • 申し送り:LINEグループ+口頭
  • 利用者情報管理:紙ファイル

それぞれは単体で見れば便利な機能かもしれませんが、「この情報はどこに記録すればいいのか?」「誰がどこまで確認したのか?」が見えづらくなることで、職員のストレスはむしろ増していきます。

ツールごとにログインやパスワードが必要

特にICTに不慣れな職員にとって、「ログインが面倒」「操作方法がそれぞれ違って覚えきれない」という声は少なくありません。
IDとパスワードの管理、アプリのアップデート対応、サポート窓口の違い――こうした小さな“煩雑さの積み重ね”が、負担としてのしかかってくるのです。

“導入されたが、誰も活用していない”状態

ツールは入ったが、使い方が定まっていない。
あるいは、使う人と使わない人がバラバラで、結局は従来のやり方と並行で運用されている
この「二重業務」状態は、DX導入の最大の失敗パターンの一つと言えるでしょう。


現場が“本当に楽になった”と感じるDXの共通点

ツールの連携ができている

成功している施設では、介護記録・申し送り・勤怠管理・利用者情報などが、できる限り1つのシステム上で連携されています。
「一度入力すれば、別の帳票にも自動反映される」「申し送り内容が記録に自動で表示される」など、“1回の作業で複数の業務が済む”設計がされているのです。

このような連携は、職員にとって「余計な操作がない」「ダブりがない」という安心感につながります。

“導入する業務”を絞っている

一度にすべてをデジタル化しようとするのではなく、「今一番負担になっている業務」からDXを始めているケースが多く見られます。

たとえば、「まずは記録業務だけ」「次に夜勤の見守りだけ」など、段階的に導入・定着させることで、無理なく成果を実感しやすくなります。

また、現場に「変わっていく余白」を残すことが、負担を減らす上で非常に重要です。

操作性がシンプルで、職員が“迷わない”

使うたびに迷うような複雑なUI(ユーザーインターフェース)は、現場にはなじみません。
成功している施設では、「ITが苦手な人でも迷わない設計」を重視してツールを選定しており、“触って覚えられる”“誰でも使える”という安心感が、現場の定着率を高めています。


職員の声を聞く=“本当の改善”への出発点

ツール導入において、もっとも大切なのは**「現場の声を聞くこと」**です。
使い勝手や不満点をヒアリングしないまま導入されたDXは、定着せず、やがて現場にとって“邪魔な存在”となってしまいます。

たとえば、

  • 「入力の順番が直感的でない」
  • 「スマホの画面が小さくて見づらい」
  • 「記録する項目が多すぎる」

こうした細かな声こそが、現場のリアルな負担感の正体です。
現場の体感を無視した“経営判断だけのDX”では、むしろ混乱を招くだけになるのです。


“使われるDX”にするために必要なポイント

1. 最初からツールを入れすぎない
→まずはひとつのツールで「負担が減った」と感じられる体験をつくりましょう。

2. ツール間の連携や統一感を重視する
→アプリがバラバラに存在するより、「一元管理」の方向を目指すほうが圧倒的に楽になります。

3. ITスキルに応じたフォロー体制を用意する
→「誰に聞いてもいい」「簡単なマニュアルがある」ことは心理的ハードルを下げます。

4. “今までの業務の見直し”とセットで進める
→単に新しいツールを追加するのではなく、既存のフローを整理・削除しながら導入することで、負担増を防げます。


まとめ:デジタル化は“増やす”ことではなく“減らす”こと

DX=デジタルツールを導入すること、と思われがちですが、本来の目的は**「現場の負担を減らす」ことです。
そのためには、“便利なツールをたくさん導入する”のではなく、
“現場にとって本当に必要なものだけを、最小限で導入する”姿勢が求められます。**

現場の声に耳を傾け、シンプルに、段階的に、無理なく使えるDXこそが、「職員が疲弊しない介護現場」を実現する鍵です。
デジタル化の本当の価値は、「仕事を増やすこと」ではなく、「人が大事にされる環境をつくること」なのです。

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