介護DXの話題といえば、AIによるケアプラン作成や見守りロボットの進化が中心でした。しかし、そのさらに先を見据えた、介護の情報管理そのものを根底から変える、静かな、しかし巨大な技術革命が始まろうとしています。それが「Web3.0」と、その中核技術である「ブロックチェーン」の活用です。

「ブロックチェーン」と聞くと、多くの人はビットコインなどの暗号資産を連想するかもしれません。しかし、その本質は、特定の管理者に依存せず、データの「信頼性」と「所有権」のあり方を再定義することにあります。

この記事では、Web3.0が介護にもたらす「データ主権」という新しい概念と、ブロックチェーン技術が、現在の介護情報管理が抱える深刻な課題をどのように解決するのか、その未来像を分かりやすく解説します。

1. Web3.0が介護にもたらす「データ主権」という革命

Web3.0とは、ブロックチェーン技術を基盤とした、次世代の分散型インターネットの総称です。その思想の根幹には**「データ主権(Data Sovereignty)」**という考え方があります。

これは、**「個人に関するデータは、プラットフォームを提供する企業ではなく、個人自身が所有し、コントロールすべきである」**という原則です。

現在のインターネット(Web2.0)では、私たちの健康情報や購買履歴といったデータは、病院やIT企業のサーバーに保管され、その管理は企業側に委ねられています。しかしWeb3.0の世界では、この主従関係が逆転します。介護を受ける高齢者本人が、自身のケアに関する全ての情報の「主権者」となり、誰に、いつ、どの範囲まで情報を見せるかを自らの意思で決定できるようになるのです。

2. 「私の記録は誰のもの?」Web2.0時代の情報管理の限界

Web3.0がなぜ今、介護分野で注目されるのか。それは、現在の情報管理の仕組みが、質の高いケアを提供する上で大きな限界に直面しているからです。

医療と介護の深刻な「情報の分断」

現在の大きな課題は、一人の高齢者に関する重要な情報が、各所にバラバラに保管されている**「情報の分断(サイロ化)」**です。

  • A病院には、過去の手術や病気の記録(医療情報)
  • B介護施設には、日々の食事や排泄、リハビリの記録(介護情報)
  • C薬局には、薬の処方履歴(服薬情報)

これらの情報は互いに連携されておらず、新しい施設に移るたびに、家族や本人が同じ説明を何度も繰り返さなければなりません。この情報の分断が、重複投薬のリスクや、緊急時の迅速な対応の妨げとなり、非効率で危険な状況を生み出しているのです。

セキュリティとプライバシーへの懸念

また、これらの機微な個人情報を、特定企業のサーバーに一括で預けることには、大規模な情報漏洩や、本人の意図しないデータ利用といったリスクが常につきまといます。

3. ブロックチェーンで実現する、3つの新しい未来

ブロックチェーンは、この「情報の分断」と「中央集権的な管理」という2つの課題を同時に解決する可能性を秘めています。

未来①:生涯寄り添う「ポータブルな健康記録(PHR)」

ブロックチェーンを活用することで、個人の生涯にわたる医療・介護情報を、改ざん不可能な一つのデジタル記録としてまとめる**「PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)」**の実現が期待されています。

利用者は、自身のスマートフォンなどを通じて、このPHRへのアクセスキーを管理します。そして、新しい病院や介護施設を利用する際に、自身の意思で、必要な期間だけ、医師や介護職にアクセス権限を与えるのです。これにより、情報の分距離は解消され、いつでもどこでも、自身の完全な情報に基づいた最適かつ安全なケアを受けられるようになります。

未来②:透明で公正な「ケアの利用履歴と決済」

介護保険サービスの利用履歴をブロックチェーン上に記録することも考えられます。「いつ、誰が、どのようなサービスを、何分間提供したか」という情報が、改ざん不可能な形で記録されるのです。

これにより、サービスの提供内容が透明化され、過剰請求などの不正を防ぐことができます。将来的には、この記録に基づいて、介護保険の給付金が自動的に事業者に支払われるスマートコントラクトという仕組みにより、事務処理の劇的な効率化も期待できます。

未来③:本人による「介護と医療の連携」管理

PHRの所有権が本人にあるため、これまで難しかった医療機関と介護施設の間の情報連携も、本人が主導して行えるようになります。例えば、病院での退院カンファレンスの際に、本人がその場で病院と在宅ケアチーム双方に自身のPHRへのアクセスを許可する。これにより、病院での治療内容が、間断なく、かつ正確に在宅での介護計画に引き継がれるのです。

4. まとめ:個人が情報の主役になる、新しいケアの形

介護とWeb3.0の融合は、バラバラだった個人のケア情報をブロックチェーン上で統合し、管理の主権を本人に取り戻す革命です。改ざん不可能な記録は、サービスの透明性を高め、医療と介護のシームレスな連携を実現します。テクノロジーが、施設や企業ではなく「個人」を中心とした、真に利用者本位のケアを支える未来が始まろうとしています。

投稿者 editor

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